桂 吉弥ホームページ
【5】神戸の芝生 素晴らしさ体験 ワールドカップを楽しむ

 「もうこれで終わりなんですね」と安っぽい恋愛ドラマのせりふのように、ボランティアの間で、この言葉が何度となく交わされた。6月17日の神戸ウイングスタジアム。ブラジルとベルギーの試合はロナウドのゴールが決まって、2対0で終わりを迎えようとしていた。
 ウイングスタジアムの北と東のゲートは芝生の上に立っている。ホームチーム側に指定されたチケットを持った人たちは、緑の芝の上でチケットを提示し、ボディチェックを受け、私のいるテントで飲み物をペットボトルから紙コップに入れ替えて、スタジアムに向かう。
 公式スポンサーのブースでゲームをしたり、フェースペインティングを楽しむのも美しい天然芝の上だ。神戸での最期の試合のこの日は、今まであった一部のさくも取り払われて、緑のスペースはさらに広がった。ブラジルサポーターのサンバのリズムの中、入場者は寝転がったり、写真を撮ったり、キックオフまでの時間を思い思いのスタイルで過ごしていた。
 「あー、おれも一緒に弁当を囲みたい」と、仕事を放り出しそうに何回なったことか。
 スタジアムの中に入ると、グラウンドの近さに驚く。球技専用のスタジアムだから、赤茶色のトラックはそこにはない。最前列の人の3、4メートル先をリバウドやロベルトカルロスが走り抜ける。サッカーボールが手に取れそうでドキドキして、そして怖い。ここでワールドカップを体験した人たちは幸福者だと思う。そしてそこでボランティアをした私も。芝生の感触を感じながら退場していくサポーターを見て、私たちボランティアの寂しさは増していった。
 18日、日本は負けた。日本が神戸のスタジアムで試合をしていたらどうなっていたか。たとえ相手がブラジルでも結果は違ったんじゃないか。韓国の大田W杯競技場でのイタリア戦、トラックのない素晴らしい競技場を見て、その思いはさらに強くなった。
 あの日、日系ブラジル人のおじさんが声をかけてくれた。「このスタジアムはいいスタジアムだ。セレソンの試合がここで見られて良かったよ」

産経新聞夕刊2002年6月20日より


ホーム | プロフィール | 吉弥のお仕事です。 | 吉弥スポーツ | 京都をすすむくん