桂 吉弥ホームページ
【2】人が集まると温もりが生まれる ワールドカップを楽しむ

 神戸会場のボランティアに申し込んだのは軽い気持ちからだった。試合を観戦できるかもという軽い期待は、「ボランティアは見られません」という事務局のひと言で消えたが、切符を買う以外の形でW杯に参加したかった。
7年前の1月、私は神戸市灘区の下宿であの地震を体験している。悪夢のような数秒の後、窓の外に見えた折れた電柱とガスの臭い。その後、卒業までの1カ月半を神戸で過ごして、3月からは噺家としての生活を始めるために下宿を離れた。学生時代を過ごした街には特別な想いがあるものだが、私の場合、あの時に1カ月半しかお返しが出来なかったという気持ちもそこに加わる。
 大好きな銭湯があった。終業時間ギリギリに飛び込んでもおばちゃんがニコニコ迎えてくれて、帰りにジュース1本を持たせてくれた。そんなおたふく温泉も、おっちゃんの磨く自慢の湯船は瓦の下敷きになった。建物はもちろん、人の気持ちが集まっていた場所が無くなるのはとても切なかった。
 W杯には世界中の想いが集まる。もちろん神戸にも。7年前のことを考えると、私の中のうれしい気持ちと、神戸で活動することの重みは日増しに大きくなっている。
 私の担当は1次ゲート前。金属探知器に反応するポケットの中の鍵、小銭、携帯電話等をあらかじめ透明の袋に入れてもらうのだが、その袋配り。先日のホンジュラス戦、「金属探知器に反応するものを入れてください」と担当者たちで配った。しかし、これを開門から2時間もやっていると段々、口が疲れてくる。
 「鍵など金属類を入れて下さい」よ言ったり、おばちゃん団体には「き、きんぞくを入れて下さい」よなった。これにはさすがに「貴金属? いやぁ兄ちゃん、私らそんな高いもん持ってないはよ。何なら指輪外そか?」と大笑いになった。やっぱり人の集まるところには温かいものが生まれる。

産経新聞夕刊2002年5月30日より


ホーム | プロフィール | 吉弥のお仕事です。 | 吉弥スポーツ | 京都をすすむくん